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アニマルウエルフェア連絡会・どうぶつネット・動物の法律を考える

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◆「アニマルウエルフェア連絡会」を表記し、野良ねこの「飼い主」や「所有者・占有者」の解釈を不適切に解説している場合のあることをうけた考え方は… → || 野良ねこの所有者あるいは占有者について ||


地域ねこへの損害賠償請求についてのご質問について……

 動物愛護法・改正新法の「基本指針」に先立って、東京都では「動物愛護推進総合基本計画」を策定し、その優先項目に「飼い主のいない猫との共生支援事業」を盛り込んでいます。通称「地域ねこ」ともいわれています。

 野良ねこへの給餌給水や繁殖制限の行為、態様など基づき、その行為者が、愛護動物の所有者あるいは占有者と同等の責務を負わなければならないという解釈について、さまざまな疑義が表明されています。

 動物擁護を目的に、法律を上手に使う試みが進んでいます。法の精神や法の期待可能性などの理論を、命ある動物に役立たせようとする試みです。飼い主のいない猫対策事業・町の野良猫対策・地域ねこ対策(以下、地域ねことします。)などに係る、愛護動物の所有者賠償責任についての疑問が寄せられます。

 法律を威圧的にふりかざすこを本意としません。なぜ、法律が必要だったのか?なぜ、法律が作られたのか?その法律をだれがなんのために、いつどこで使うのか?つまり、立法の精神や法の期待可能性を現実の社会に置き換えてみるとき、地域ねこ事業におけるねこの被害による賠償責任を国民が負うべき根拠がありません。



立法の精神と、愛護動物とはなんなのかの判断資料の一部を下記に引用します。
動物の愛護及び管理に関する法律(以下、本法とします。)

第1章総則(目的)第1条 この法律は、動物の虐待の防止、動物の適正な取扱いその他動物の愛護に関する事項を定めて国民の間に動物を愛護する気風を招来し、生命尊重、友愛及び平和の情操の涵養に資するとともに、動物の管理に関する事項を定めて動物による人の生命、身体及び財産に対する侵害を防止することを目的とする。

(基本原則)第2 条 動物が命あるものであることにかんがみ、何人も、動物をみだりに殺し、傷つけ、又は苦しめることのないようにするのみでなく、人と動物の共生に配慮しつつ、その習性を考慮して適正に取り扱うようにしなければならない。

第6章 罰則 第44条 愛護動物をみだりに殺し、又は傷つけた者は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。
2 愛護動物に対し、みだりに給餌又は給水をやめることにより衰弱させる等の虐待を行つた者は、50万円以下の罰金に処する。
3 愛護動物を遺棄した者は、50万円以下の罰金に処する。
4 前3項において「愛護動物」とは、次の各号に掲げる動物をいう。
一牛、馬、豚、めん羊、やぎ、犬、ねこ、いえうさぎ、鶏、いえばと及びあひる
二前号に掲げるものを除くほか、人が占有している動物で哺乳類、鳥類又は爬虫類に属するもの
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●本法では、動物と愛護動物の定義を細かく言葉で決めていません。第6章の罰則、第44条第4項において、11の動物を愛護動物とし、それ以外に「人が占有している動物で哺乳類、鳥類又は爬虫類に属するもの」としています。

●損害賠償の責務の対象は、人が占有あるいは所有し、人の離脱有体物として、人がその財産権利などの何らかの価値を併せて持つことを表明している対象物です。例えばペットショップやそのほかの取扱業、産業、展示、個人の愛玩動物などやそのほかの、人がその財産権利を併せ持つ動物が他人を侵害した場合や、逆に医療過誤などで人の所有する動物の価値が侵された場合などです。

●本法の(目的)第1条や(基本原則)第2 条を立法の精神とする場合、第6章罰則第44条第4項一号の「ねこ」は、一義的に「愛護動物」であり、その所有者や占有者の有り無しに関係ありません。

●地域ねこ、つまり飼い主のいない猫に係る、地域環境の保全事業において、占有者の表明のされない場合に、賠償の責務を負う対象者もいないことになります。

 日常の生活に立法の精神を置き換えて、参考事例を続けます。狂犬病予防法で犬は例外なく登録され、所有者が特定されることになっています。また、登録した所有者には、犬の適切な管理義務も課せられています。
 乳幼児が犬にかみ殺された事件が過去にありました。所管行政が法の実行不作為で係争にかけられました。つまり、人を侵害する野良犬の発生を、法の実行や執行で防げたにも係わらず、人を殺す事態を防がなかった行政の執行責任を問われたものです。

 事例の不適切さを理解していますが、分かりやすいので次を続けます。人の環境を侵す場合のカラスやネズミは愛護動物のねこと異なり、駆除の対象とされます。しかし、第6章罰則第44条第4項二号のように、カラスやネズミを「人が占有している動物」とした場合には、本法による愛護動物となり「みだりに給餌又は給水をやめることにより衰弱させる等の虐待を行つた者」が罰せられます。

 第6章罰則第44条の第2項には「みだりに給餌又は給水をやめる」とあることから、既に動物の所有や占有を表明し、「給餌又は給水」を行う特定者がいたものと判断されますので、第6章罰則第44条の第1項にある、占有者や所有者の特定できない場合の「愛護動物をみだりに殺し、又は傷つけた者は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。」罰則と、処罰対象者が異なっています。

 カラスやネズミの被害を食い止めるため、行政は駆除も含めた執行措置を行いますが、野良ねこは愛護動物ですから、所有者や占有者がいるいないに関わらず駆除を行えません。駆除の態様などにより本法第6章罰則第44条第1項を犯す恐れがあるためです。
 本法で、犬とねこの所有者には繁殖制限手術と適正な終生飼養の責務が決められており、遺棄や殺傷は犯罪ですから、行政が所有者などに対する法の実行を適切な施策としていた場合に、野良ねこの発生を防げたことになります。
 生活侵害苦情を大きな意味での損害賠償として立件可能な場合、厳密には野良ねこの発生を抑止できなかった行政不作為に起因した、などの理論も成り立ち、請求先は行政になりますが、賠償を求める立場から、過去迄さかのぼった野良ねこの発生原因や、その所有者の立件も現実的には困難です。
 一義的に愛護動物といわれる動物の餌となるものを持ち出すなどやそのほかの者を、その態様から判断して占有者とみなし、第三者が占有権者を特定し立証することは、人の財産権利などの保全を目的とするさまざまな法規の立法の精神に即しません。仮に特定を想定され占有権者にされる人が、野良ねこの併せ持つかもしれない財産権利の必要性を求めないからです。単純に、命あるものであることにかんがみた、愛護動物のねこと判断し、離脱有体物の財産価値を超えた、命ある存在を求めるからです。

 所有者のいないねこが地域ねこの対象ねこですから、市民が損害の賠償を負うこともありません。但し、所有者や占有者が野良ねこを離脱有体物として、その所有の権利義務を表明している場合の、単なる外飼いねこの場合にはこの限りではなく、地域ねことは異なります。
 また、野良ねこの所有や占有の権利を第三者に強く求めることは、該当ねこの終生飼養に係わる第三者個人への生活財産権利を侵害することになります。例えば、ねこの一生涯の飼育受託費用を数百万円に設定する民間事業が興されていることからも、適正な終生飼養を何者かに強制する際の生活財産権利の侵害をうかがい知ることができます。

 地域ねこ事業は、所有や占有が前もって特定されているねこを対象としていないことと、既に野良ねこ侵害苦情(大きな意味での環境保全賠償)の求められている事態への、社会環境保全の貢献協働事業とする位置付けです。

 野良ねこを発生させた行政不作為の係争を避け、野良ねこからの生活侵害を前もって防ぐための地域ねこですから、飼い主(占有者や所有者)のいない愛護動物に起因する、損害賠償請求の対象者もいません。
 地域ねこは、所有や占有の特定されているねこを対象としていないことと、既に野良ねこ侵害苦情(大きな意味での環境保全賠償)の求められている事態への対策や、その事前の抑止を目的にする社会環境保全に貢献する、官民協働事業の位置付けです。
 野良ねこを発生させた行政不作為の係争が何の解決にもならないことと、野良ねこからの生活侵害賠償苦情を前もって防ぐための地域ねこですから、占有者や所有者のいない愛護動物に起因する損害賠償請求の対象者もいません。

 各地の地域ねこの先行事例を考察する時、生活侵害苦情賠償の責務を地域ねこの実行ボランティアに負わしている地域行政所管も見られましたが、官民協働の地域社会活動プログラムが成立しないため、施策を進められず地域に根付きません。


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2006.11.up

 



2006.11.(無断転載はご容赦ください。)

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