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 ご質問は「マイクロチップ」の装着と、法制化との関係についてです。動物愛護管理法上の「よるべき基準」改定計画が進んでいます。この中にも「マイクロチップ」という用語が登場します。

    身元の表示と動物とお医者さんと通院のお客さん・・・

 法律に「マイクロチップ」という言葉が使われ始め、そのことについての質問がよせられます。マイクロチップの果たす役割について考える時、さまざまな観点から、さまざまな分野から、さまざまな立場からの効果などを整理してみました。

 人と動物との関係について、今の社会では、一般的にどのようになっているのか?などから考えます。

(1)「人の命に危険を及ぼす事態の撲滅」が目的の「狂犬病予防法」で決められる通り、犬の飼い主は飼い主であることを登録します。また、同じく、飼い主は犬に予防注射を受けさせます。
 登録したときや、注射を受けさせたときに、鑑札票と注射済票が交付され、飼い主は犬に付けておかなければならないことになっています。
 鑑札票は地域行政官なども保健所などで交付することが可能で、飼い主も簡単に装着できます。
 注射済み票は、おおむね動物のお医者さんの行う予防注射の後に、済票を同時に公布するか、お医者さんで注射が済んだ証明と引き換えに、地域行政官なども保健所などで交付できます。
 お医者さんも事業者という立場をあわせ持つことから、注射に係わる費用などの利益配分にも配慮された仕組みになっているようです。

 鑑札と済票の装着を怠った飼い主などは、罰則もある犯罪を行っていることになっていますが、極めて特殊な場合を除いて、検挙された例も聞きません。
 所管などから報告される数字によると・・、犬の登録実数は飼われている数の、約半数ほどとされ、鑑札や済票の装着実数について報告される数字はありません。
 マスメディアに登場する犬や、展示される犬を参考に判断する場合に、その装着の実数を図り知ることができます。

 動物愛護管理法(略称)で、名札・脚環・マイクロチップに限り、直接その用語を使い、愛護動物の飼い主は、飼い主であることの表明として、そのほかの装着の方法も併せて、身元表示の措置を講じる際の、標準的な例としています。身元表示には、逸走の際の発見をしやすくする目的もあるため、外観からも容易に判断できることも求められます。
 犬に限った場合には、現在約半数と報告されている、鑑札票装着の実行数字を高めることにより、身元表示が可能である、という考えがあります。

(2)人と動物との関係という、やや複雑で困難なテーマの中で、愛護動物と人との関係を考える時の大きな課題があります。
 日本に「動物基本法」はありません。しかし、唯一、動物愛護管理法は、「動物が命あるものであることに照らし合わせて、人と共に生きる心配りをする」ことも立法の精神になっています。

 人が嗜好の対象とする愛玩物という位置付けでも、動物は売り買いされています。人の役にたち、人のために働く動物も多くの種類がいます。愛玩動物や伴りょ動物、ふれあい動物や販売動物などと、人の都合でくくり分けされる動物が、あるときは展示動物や産業動物、実験動物などの間を行き来する恐れもなくなっていません。
 このように、命ある動物に、人が、その立場や、動物をなんらかの目的で位置付けしようとする分野でも、十人十色のさまざまな考えがあります。
 動物が命あるとする観点からの統一規範や、動物が命あるとする本質を定めた根拠法のない中で、先端的な科学技術のマイクロチップを先行して、法にとりいれることに対する疑問が生まれてしまう、という考え方もあります。

 飼養や保管をしている動物が、万が一逸走した際には、飼養や保管をしている飼い主などの自らの責任として、探し求める、ことも決められています。
 その際の逸走捜査に、外から見える名札や脚環のほか、マイクロチップも役に立つ、とする考えや、緊急災害時のアニマルレスキューを実行措置に定める自治体等で、マイクロチップの装着を、飼い主の責任の範囲に盛り込む、とする考えもあります。
 動物の遺棄には処罰もあります。遺棄された外来種やそのほかの動物が、人の環境や生態系を侵す、などとする立場もいます。侵しているとされる動物の防除策は考えられても、根本の原因である、動物遺棄違反者対策は実行されず、遺棄の責任を負わされることもほとんどありません。
 遺棄違反者の防除を目的として、動物取扱業者(展示動物を含む)などへ、マイクロチップの装着を進めようとする考えもあります。

(3)今の日本の社会では、生物多様性と環境を考えるときに、在来種動物の保全や、既に存在している外来種動物への適切な対処も極めて困難な事態に直面しています。
 今後、移入の機会が思われる外来種動物のすべてにマイクロチップを埋め込み、個体識別の助けにしようとする考えがあります。
 外来種動物を愛護動物として飼う行為そのものを、「いかがなものか?抑止しませんか?」とする考えもあります。

(4)地域行政が愛護動物の飼い主から引き取り依頼される場合を想定して、次のような考えも理念のひとつとして示されています。
 引き取り依頼とは、「飼い主の、八方手を尽くしても、万事やむを得ない、緊急避難的な事態における、所有権の放棄」という考えで、動物の法律改正時の議会付帯決議に示されています。このような考えを理念とする「事態」は、それほど多くはありません。
 飼い主などの「適正な終生飼養」や「適正な終生飼養ができない場合の繁殖制限」という責務を、動物愛護管理法で定めていますので、疾病障害や高齢化、うっかり生ませた、などの事態での引き取り依頼は困難、という理屈です。
 このような、それなりの理由の引き取り依頼を「公益性に配慮された行政サービスの措置ではない」と判断する自治体も見え始めました。

 本法によるべき、基礎となる標準、を決めた法令等には、立法の精神と裏腹な事項も見られます。動物を人の為に働かせ、人の役に立たせる観点や、ビジネス社会に配慮する立場から、終生飼養や繁殖制限の努め、つまり自己の行為の及ぶ範囲で、生ませたすべての動物の一生涯に渡る、自己の負うべき責務を飛び越え、生ませてから、反復継続し譲渡する者の、営巣の施設管理基準などを決めることもあります。
 営巣の施設管理をし、動物の譲渡を反復継続する立場の者は、取扱う動物についてマイクロチップを装着をする、などを進めようとする考えもあります。

(5)地域行政が愛護動物の飼い主から引き取り依頼されることは、理念とする考えと反対に、その数の多いことも現実です。
 地域行政などに所管から通知されている「引き取り動物に生存の機会を与えるように努める」ことは、現在、各地域行政における動物抑留施設の設置事情では困難です。
 このため、逸走動物や理念にそわない場合の抑留動物などに、市民段階で、生存の機会を与えるための所有権の確認、などに関する技術の一環として、マイクロチップを使用する、という考えもあります。
 飼い主などの、命ある動物に対する責任意識や、動物愛護文化土壌を成熟させる普及啓発行動に伴い、逸走動物や、みだりな抑留動物は減らすことができるという考えもあります。

(6)本能や生態から判断しても、外観からの身元の表明のしやすい、名札や脚環などの装着が困難で、且つ、逸走行為の起こりやすい動物については、飼い主の判断でマイクロチップを埋め込む、という考えもあります。
 マイクロチップは、科学的にも医学的にも技術が進んでいるものの、動物の生理的な面から、肉体に係わることを心配する考えもあります。
 動物が人の役に立ち、人のために働くなどの意識も多く見られる海外では、「遺棄された動物の、埋め込み部位の肉体が、マイクロチップと共に離脱されていた・・」などの事例もあります。

(7)動物が命あるものであることの確立がされていない事態において、動物の生命保険と異なる、損害補填の動物保険経済活動もあります。
 犬とねこをあわせると、その飼養者は年間で約2000万人にものぼることが報告されています。メディアなどでも、人の嗜好に訴える愛護動物風潮が、主に愛玩動物の分野で盛んです。動物との共生や癒し、伴りょ動物、動物とのふれあい、などなど、人の役に立ち、人のために働く動物気運の盛り上がりに期待する立場もいます。

 犬の鑑札票の公布や装着に、お医者さんの手をわずらわせる必要はありませんが、マイクロチップの埋め込み医療を、お医者さんが行います。
 一説によると、マイクロチップの埋め込み医療費が、動物1頭あたり1万円〜2万円ともいわれています。但し、きめこまかな調査に基づく国内一律価格ではありません。国内で、マイクロチップ読み取り機器などの統一規格は、未だ成熟途上です。埋め込みの価格も均一ではありません。

 法律文書の中に、マイクロチップ装着などの用語が使われています。人と、命ある動物との適切な関係を成熟させる、技術的な方法のひとつとしてのマイクロチップなのか、あるいは、獣医療の係る経済社会を活性化する目的のマイクロチップなのか、ひとりびとりが、確かな判断基準を保つ努力の必要性も促されています。

 動物の飼い主さんという観点から、身元の表明と、動物病院に通うお客と、お医者さんとの関係を、マイクロチップと、動物にまつわるビジネス社会や、生物多様性と環境の問題もあわせて、さまざまな分野・立場から考えてみました。



2004.02.(無断転載はご容赦ください。)

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